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Research Briefing
31 7月 2026

EUのチップ法2.0でも生産拡大は限定的

構造的な高コスト体質と補助金規模の限界が阻む、世界シェア20%目標への過酷な道のり

欧州連合(EU)は2026年6月、技術主権と経済安保の強化を掲げて「半導体法2.0(Chips Act 2.0)」を提唱しました。しかし、構造的な製造コストの高さが足かせとなり、2030年までに世界の半導体生産シェアを20%へ引き上げるという同領域の目標達成は困難であると見込まれています。2025年時点のEUにおける電子部品・基板(半導体を含む)の世界生産シェアはわずか4%強にとどまっており、今回の改正案では対象範囲が設計から材料、装置、後工程まで広げられたことで政策の焦点が曖昧化(分散)し、さらに明確な新規予算の裏付けも欠いていると指摘されています。当社のエコノミストは、エネルギー・人件費・資本コストの高さや規制の複雑さが投資の引き寄せを阻み、2030年までにEUの世界シェアは3.2%へさらに低下する可能性が高いと分析しています。

本リサーチ・ブリーフィング(原題:Chips Act 2.0 faces cost headwinds)では、他地域(米国・アジア)に対するEUの半導体生産コスト差、公共調達による内需創出策の実効性、ならびに最先端AIチップ調達における対外依存の構造的課題について多角的に分析しています。

  • 政策焦点の拡散と財政枠組み(補助金規模)の不足:改定された半導体法2.0は、前身(2023年施行)に比べ政策支援の対象を設計、材料、製造装置、プリント基板、先進パッケージングなど半導体エコシステム全体へと拡大しました。しかし、供給網のあらゆる工程に支援を分散させることはリソースの非効率な配分を招き、実際の製造能力(ファブ)の強化という最大の課題に対する焦点をボヤけさせるリスクがあるとみられています。また、同法案には独自の明確な予算が定められておらず、想定される150億ユーロの公的投資(2028〜2034年多年度財政枠組み)では、北米やアジアの巨額な補助金水準との格差を埋めるには不十分であると分析されています。
  • 公共調達による域内需要創出策の限定的な効果:法案では需要喚起策として公共調達における域内産チップの優先購入が提案されていますが、これによる需要増大効果は限定的であると考えられています。2025年の公共調達における半導体需要(38億〜77億ユーロ想定)の多くは、すでにEUが相対的に強みを持つレガシー(非最先端)チップであり、中国などの安価な供給を阻止する一定の効果にとどまると見込まれます。一方で最先端AIチップ等の領域では、米国、台湾、韓国といった同盟国・戦略的パートナーへの依存度が高く、技術的障壁や高コストからこれらを域内産へ急速に置き換えることは現実的・経済的ではないと指摘されています。
  • 初期投資(CAPEX)を押し上げる高資本コスト・人件費・規制: EUにおける半導体の総合生産コストは、台湾、韓国、中国より約40〜50%高く、米国と比較しても約16%割高となっています。最大の要因は高水準の初期設備投資(CAPEX)であり、断片化した金融市場による加重平均資本コスト(WACC)の高さや、高度な建設作業員の不足が建設費を引き上げています。さらに、認可や設計にかかる手続き期間が他の主要国より平均7.5か月長く、規制の複雑さがプロジェクトの遅延とコスト増加を招いていると分析されています。
  • 電力コストと人件費がもたらす高い運営費(OPEX)の重荷: 工場稼働後の運営費(OPEX)においても、EUは厳しい競争環境に置かれています。原発比率の低下、送電網容量の不足、輸入ガスへの過度な依存により電気代が高止まりしており、これは台湾等とのコスト差の大きな要因となっています。また、欧州の人件費はアジアの2〜3倍と高水準であり、社会保険料の負担や低い労働生産性がユニット・レーバー・コスト(単位労働コスト)を押し上げています。アジアや米国のような巨大ファブによるスケールメリットが得られない点も、収益性を圧迫する要因となっています。


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