中国AIモデル、人民元、AIシナリオ分析
中東情勢とエネルギー価格
中東情勢再緊迫化でブレント価格高止まり1が長期化する方向で油価想定を変更。26年中は平均85ドルで推移、その後の低下も緩やか(27年末65ドル)との新想定の背景には、軍事紛争のエスカレートは回避されるが、ホルムズ海峡の海運量の回復は限定的かつ不安定な状況が続く「泥沼化」見通しがある。ただ、この程度の油価想定の変更では世界GDP伸び率への影響は限定的で、25年3.0%、26年2.5%、27年3.1%(先月3.2%)とのパスはほぼ不変。
欧州のガス価格見通し2も上方修正する予定で、暖房シーズンを控え天然ガスの貯蔵量は過去最低水準にある。中東情勢に加え、ノルウェーのガス生産停止期間の延長、干ばつで水力発電や原子力発電の出力が低下したことによる発電量不足が影響。EUは近年、ガス消費量を15~20%削減しているものの、冬季には依然として天候に左右されやすく、寒波が長期化すれば価格は急騰してECBのタカ派的な姿勢を強める可能性。しかし、世界のLNG供給量やEU内の輸入ターミナルの増加を踏まえると、2021‐22年のような物理的な供給不足や割当に陥る事態はテールリスクとみている。
サービス価格への2次波及
エネルギー価格上昇が先進国の物価と金融政策運営へ与える影響を巡る重要な鍵はサービス価格への2次波及3の大きさ。現時点では、①過去の事例に比して原油価格の上昇率が限定的、②先進国の内需は活況を呈していない、③雇用環境からみて賃金の急騰は見込まれないといった理由から波及は限定的に止まるとみる。ただ、欧米を比較すると、賃金の落ち着きと高い生産性の伸びが観察される米国に比べ、労働市場が相対的に引き締まり、ガス価格の影響も大きい欧州の方がサービス価格への2次波及リスクは幾分大きいという違いはある。
経済不確実性と設備投資
中東情勢を巡る不確実性は今後も続きそうだが、不確実性が企業の設備投資をどの程度抑制4するかについては、当社は幾分楽観的な見方に転じている。当社が四半期毎に企業に対して行っている世界経済の成長見通しを巡るリスク・サーベイによると、年初にイラン紛争で上昇したビジネス上の不確実性の約5分の2はテールリスクへの懸念後退で解消されている。各種報道などのテキスト分析が示す不確実性指数ほどは実際の企業のリスク認識は大きくなく、相次ぐ供給ショックという新常態に適応していることを示唆している可能性。
中国ハイテク産業の躍進が及ぼす影響
当社中国分析チームは次世代ハイテク戦略産業での中国企業の目覚ましい躍進がもたらす経済インパクトに関する分析を進めている。Kimi K3に代表される安価な中国AIモデル5は、性能が比較的高いAIモデルについても価格のフロアを設定し始めており、米国企業の独壇場であったAIビジネスに少なからぬ影響を及ぼす。ただ、米国の競争優位性はAIモデルの分野では急速に縮小している一方、演算能力の分野ではしっかり維持されている。今後は優れた演算能力を基盤とする米国主導のネットワークと、より安価で実用性の高いモデルで競争する中国主導のネットワークという2つのAIエコシステムが明確に分化していくと予想する。中国によるAIモデルのコモディティ化が現在のAIブームを崩壊させるとは思わないが、米国のAI関連企業のROEや企業価値に関する市場評価が揺らぐリスクは高まっている。
中国はロボティックス、AI、革新的な医薬品分野という新たな「新3業種」においても躍進6が目覚ましいが、その経済全体への恩恵は必ずしも大きくない。当社試算では、これら3業種は最終需要1元あたり0.66~0.71元相当の国内付加価値を生み出すが、これは従来の「新3業種」(電気自動車、リチウム電池、太陽光発電設備)の約0.76元、不動産・建設業の0.93元と比べて小さい。また、新たな「新3業種」は従来の産業に比べ凡そ半分の労働力しか必要とせず、今後の少子高齢化を考慮しても経済構造変化による労働需給の均衡回復を一段と難しくする。また、これら産業は、投資審査、演算能力や技術へのアクセス、臨床データ、知的財産権、サプライチェーン規制といった関税の枠を超えた貿易摩擦を招く。
人民元はどれだけ割安なのか
中国の対外黒字拡大は、戦略ハイテク製品の国際競争力に加えて、人民元の割安さも寄与しているとの見方が根強いが、割安・割高の評価7には技術的困難が伴う。様々な推計手法をサーベイすると11%~30%のレンジで過小評価されているとの結果となるが、各手法の長所・短所を吟味すると、同レンジの上半分に位置していると考えるべきというのが当社の見解。実質為替レートをトレンドと比較すると過小評価度合は比較的軽微となるが、この手法は単純すぎて限界がある。より適切な推計値を得るには、①購買力平価と現在の為替レートの差を米国に対する1人当たりGDPと比較するモデルや②生産性、金利差、交易条件などを用いるモデル(BEER)、③持続可能な基礎経常収支を勘案するモデル(FEER)が適当。
AIに関する長期経済シナリオ
当社はAI投資ブームの持続性については概ね強気の立場であるが、未だ米国ですら実現していないAIによる生産性押上げ効果がどの時点でどの程度出てくるかを巡る不確実性は引続き大きい。当社は2060年までの世界経済の長期的な姿について独自の経済モデルを用いたメガトレンド・シナリオを提供しているが、最新レポートではベースライン予測と共に鍵を握る3想定(AI普及率、AI導入の業務への影響度合い、AI導入による生産性の上昇度合い)の組み合わせを変えて3つのAI長期シナリオ8を示している。「飛躍的発展」シナリオでは、2060年時点でG7のGDPはベースラインを8%上回り、生産性は急速に上昇しても労働市場の深刻な混乱が生じる「労働市場混乱」シナリオでもベースラインを6%上回る。一方、生産性の向上が緩やかで労働市場もやや悪化する「失望」シナリオでは4%下回る。
選出したリサーチ
※リンクがあるレポートは、無料で全文をご覧いただけます。日本語版があるものは日本語ページへ、それ以外は英語版へリンクしています。
- Global: Oil prices to ease as markets adapt to prolonged Hormuz disruption
- Europe: Europe faces its toughest winter in five years amid tight gas markets
- Global: Services inflation and why it matters
- Global: Economic outlook is less uncertain than news suggests
- Global: The moat illusion – China’s bid to deflate US AI valuations
- China: Brains, bots, and biotech – new ‘New Three’ sectors reinforce old imbalances
- Global: The Chinese renminbi looks undervalued
- Global: Economic scenarios for AI vary markedly
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オックスフォード・エコノミクスの世界経済ハイライト
Oxford Economics 在日代表(元日本銀行国際局長)の長井 滋人が日本マーケットに関心度が高いマクロ経済テーマを日本語で解説します。世界経済ハイライトでは、当社が発行したリサーチから関連度が高いレポートを選出しています。原則2週間に1度の更新です。
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