AIブームと中国、中国の日本化、英国財政
米欧のインフレと金融政策見通し
7月のFOMC1はタカ派的トーンでの金利据え置きとなったが、当社は引続き来年9月までの長い様子見に続く次の一手は利下げとみる。今後当社予測どおりに次第にサービス価格インフレと雇用の減速を示すデータが出てくると利上げは困難になる。雇用については、高齢化と移民減少による労働供給の減速で失業率の安定化に必要な月次雇用増加2は現在の5万人からさらに低下して28年にはマイナスとなるとみている。ただ、その場合も労働供給の構造変化の影響を巡る不確実性は高いため、失業率の低下など他の雇用指標の悪化を伴わないと利下げには踏み切りにくく、結果的にFEDの様子見が長期化する。
インフレ面では、本年入り後緩やかな上昇基調を辿ってきた個人消費支出(PCE)デフレータのコア指標は、9月公表の年次改定3でより落ち着いた動きに遡及改定される見込み。また、関税の根拠法が通商法第122条から301条へ転換されても米国の平均実効関税率4に及ぼす影響は限定的で、物価への影響は減衰していく。本当にカナダへ50%追加関税5を掛けるかについては不確実性が残るが、実施した場合の影響はカナダには深刻でも米国全体では限定的。
ECBの7月会合6でも中東情勢再緊迫化によるエネルギー価格上昇を受けてタカ派的なトーンでの金利据え置きとなった。ラガルド総裁は会合毎の判断との姿勢は維持したが、記者会見などから判断すると、油価が下がらなければ9月に利上げを行う可能性を暗黙に示唆した。ただ、産業連関表や過去の価格転嫁の経験などから品目別にエネルギー価格の2次波及の大きさを再検証7しても、22年よりはかなり限定的になるとの見方は変わらない。来年の賃金の伸び8が3.4%程度に止まり、賃金と物価の悪循環に陥るリスクが小さいことが大きい。
中国におけるAIブームの影響
中国の2QのGDP前年比成長率は1Q5.0%から4.3%に減速したが、26年の成長目標はどうにか達成出来るペースは維持。ただ、成長の構図をみるとグローバルAIブームと政府の強力な支援の恩恵を受けるハイテク業種頼みの脆弱性9は否めない。予想を上回った生産や輸出もハイテクとそれ以外の差が目立ち、製造業全体の稼働率が鈍化する中で電子機器関連の稼働率だけが緩やかに上昇。固定資産投資も、年初来累積の前年比でプラス成長を記録したのはハイテク製造業のみで、製造業全体、インフラ、不動産への投資はいずれも前年割れ。
中国国内におけるAIの普及・発展と生産性の上昇10はどうだろう。ここ1-2年で中国のAIスタック(モデル、演算能力、電力、普及状況)は当社予想を上回るスピードで発展、安価なオープン型国産モデルを梃子に先進国並みのペースでAIの普及が進む可能性が高まっている。ただ、個人による日常の汎用的タスクに関する利用が多く、企業によるビジネスへの本格的な適用は未だ限定的なため、定型業務の代替は急速に進んでも、企業の複雑な業務でのAI活用で生産性や家計所得の押上げが実現するには時間を要するとみている。AIの中国の潜在GDP押し上げ効果は、当初予想より早く2030年以前に始まるとしても、2050年までに潜在GDPを累積で6%押し上げる程度との予測は維持する。予想以上に速いAI普及は国内における投資も押上げるが、投資ブームが深刻なインフレ圧力となっている米国と比べて、中国は経済構造や景気サイクル面の違いからCPIへ与える影響は限定的との分析結果。
中国におけるバランスシート調整
中国の需給不均衡は引続き深刻で、生産や輸出など供給サイドは強い一方、消費や投資といった内需が弱い構図は続く。バブル崩壊後のB/S調整や高齢化などに注目した中国経済の「日本化」11論は説得力があるが、両者の違いも目立ってきた。債務の対GDP比をみると、家計債務は急拡大後に横這いに転じている点で日中は似ている。一方、企業債務は140%まで拡大した後は低下に転じた日本に対し、中国では拡大を続けて180%に達している。最近の企業債務拡大は国のハイテク奨励策を映じた国有企業などに限定され、大半の企業は過剰債務・設備の調整圧力に苦しみ、銀行システムの負担も大きい。B/S調整の痛みを抱えたままハイテク中心の製造業強化策を続けることで持続的な成長を実現出来るかは大きな課題である。
中国の過剰供給力は輸出爆増を通じて世界経済へも影響を及ぼしている。中国の鉄鋼生産量は世界生産量の半分近く、過剰生産能力の半分以上を占める。中国からのAPAC諸国への鉄鋼輸出12は補助金に支えられた低価格戦略で大幅に増加しているが、その要因を実証分析すると、大半は輸入元の消費拡大によるものではなく、中国製品の市場シェア拡大によるもの。
英国経済の脆弱性と日本への教訓
バーナム新政権に注目が集まる英国経済のマクロ経済的な脆弱性13の分析は、政府債務GDP比の安定化に必要な潜在成長率(生産性)の引上げと国債金利引下げという共通する難問に取り組む日本にとって学ぶことが多い。日本は英国と比べて対外収支や対外投資ポジションといった金融構造面での脆弱性が小さいことは安心材料だが、積極財政への前のめり姿勢はより強い。金融政策ではBOEは近年の供給ショックへの対応に失敗してインフレ実績がG7の中で最悪であり、結果インフレ期待の不安定化を招いている点は日銀にとって参考になる。
新興国のソブリンリスク
政府債務の急拡大と国債金利の上昇は新興国のソブリンリスクも高めているが、バラツキが大きく数も多い新興国のモニタリング・コストは大きい。当社はマクロ経済予測に基づいてデフォルトリスクに実証的に有意な影響を与える主要変数のスコアリングを166ヵ国について示すリスク指標を提供している。この指標を用いた最近のリサーチでは、政府の債務返済コストが急上昇してもソブリンリスクの上昇が限定的な理由14、ホルムズ海峡の封鎖長期化シナリオでデフォルトリスクが高まる新興国15はどこかといった予測・分析を示している。
選出したリサーチ
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- US: Hawkish Fed will remain data dependent over the summer
- US: What low breakeven employment growth means for the labor market
- US: Methodology change will shift the story on core inflation
- US: Tariff Monitor – Why recent headlines haven’t changed our outlook
- North America: New US tariff threat on Canada is a risk to the forecast
- EZ: ECB delivers hawkish pause ahead of the summer break
- EZ: Expect more muted second-round effects of the energy shock on inflation
- EZ: Wage growth shouldn’t be a headache for the ECB
- China: AI ecosystems to remain key engine of growth this year
- China: More AI diffusion but less reflation
- Global: China still faces a ‘Japanification’ risk
- Asia Pacific: What do China’s steel exports tell us about regional industrial cycles?
- UK: Why is the UK so sensitive to global supply shocks?
- Global: Rocketing debt service but few crisis – the 2020s’ debt conundrum explained
- Global: Navigating sovereign risk in volatile seas
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オックスフォード・エコノミクスの世界経済ハイライト
Oxford Economics 在日代表(元日本銀行国際局長)の長井 滋人が日本マーケットに関心度が高いマクロ経済テーマを日本語で解説します。世界経済ハイライトでは、当社が発行したリサーチから関連度が高いレポートを選出しています。原則2週間に1度の更新です。
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