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02 9月 2026

ジャクソンホール講演、米国カナダ関税戦争、食品価格インフレ

長井 滋人
長井 滋人
在日代表

ジャクソンホールのWarsh議長講演

ジャクソンホールでのFRB Warsh議長講演1は予想以上にタカ派的で金融市場は大きく反応した。具体的には、①物価安定目標の指標として個人消費支出デフレータを明確に支持、②現在の政策スタンスは引き締め的ではないと示唆、③デフレ圧力の緩和が進むペースが遅すぎると述べたことが驚きをもたらした。当社は今後発表されるインフレ指標は利上げ圧力を和らげるほど穏やかなものになるとみており、現時点では「来年9月までの様子見後の利下げ」とのベースライン予測を維持するが、年内利上げのリスクは高まっている。

石油精製品と食品価格のインフレ・リスク

ホルムズ海峡の封鎖長期化の下でも原油価格の上昇は小幅に止まっているが、サプライチェーンの影響が大きいディーゼルやジェット燃料といった石油精製品や石油化学原料2(硫酸、エチレン、ナフサ等)の価格再上昇は注視している。アジアにおける硫酸の価格高止まりはニッケル、コバルト、銅、りん酸肥料等の生産に影響を及ぼしている。ディーゼル価格上昇のサプライチェーンへの影響3を産業別に分析すると、直接的な影響はディーゼル燃料の消費量が多いトラック輸送や水運で大きいが、今後は輸送コスト上昇の影響が原材料や完成品の輸送を貨物輸送に大きく依存する産業(食品、金属、建設資材等)に次第に及んでいく。

ウクライナ戦争、イラン戦争、欧州における異常な暑さと乾燥、エルニーニョ現象などが世界的な食料品価格を押上げ4ていることもインフレ・リスク。世界最大の穀物輸出国ロシアと同5位のウクライナからの穀物輸出量の減少に加え、ロシアの製油所、港湾への攻撃は、石油製品や肥料の世界的な価格高騰を招いている。現時点では今年の世界の食料価格は11.8%、2027年には4.8%の上昇と予測しているが、アゾフ海および黒海流域における最近の戦闘激化はより深刻な世界的な食料価格ショックを招く可能性がある。

米国とカナダ貿易戦争の行方

米国とカナダの関税引上げの脅しの応酬がエスカレートする。米国によるスムート・ホーリー法338条に基づく関税とカナダによる”dollar for dollar”の報復関税のカナダ経済への影響を試算5すると、27年のカナダのGDPは、8月のベースライン予測より0.3ppts低下、消費者物価は約0.3ppts上昇する。その後トランプ政権は、カナダ産の自動車やトラックに対して2027年1月から50%の関税をかけるとまで表明した。依然として可能性は低いが、USMCAが破綻すると、カナダは景気後退に陥り、成長率が恒久的に低下する軌道に乗る。

カナダ産の自動車と自動車部品に対する50%の追加関税が米国経済全体へ与える影響6は比較的小さい。近年、米国の自動車・同部品の輸入元がカナダからメキシコに急速にシフトしているためだが、ミシガンやオハイオでは引続きカナダ産への輸入依存度が相応に高く、中間選挙前だけに政治的コストは大きい。成長率より懸念されるのは新車価格上昇によるインフレ押上げ効果。これまでトランプ関税の新車価格への転嫁が限定的であったのは、①関税前の在庫積み上げ、②米国の自動車メーカーとディーラーの利益率引き下げ、③日本を含む海外メーカーによる価格を引き下げに負うところが大きいが、米国の自動車メーカーやディーラーの収益マージンは歴史的低水準にあり、コスト吸収余地はあまり残されていない。

米国長期金利とバイバック

Bessent財務長官による長期国債の買入消却(バイバック)7もサプライズであったが、その金利引下げ効果は短命に終わった。米国長期金利は水準的に大きくファンダメンタルズを超えていない中でこうした小手先の対応に踏み切ったことへの困惑もみられるが、今後の長期金利上昇を防ぐ強い意志を同長官が示したことは過小評価すべきではないとみている。

当社のインフレとFEDの見通しは米国10年債金利が来年に入ってから緩やかに低下に向かうことを示唆するが、中東情勢を巡る不確実性は長引くためボラティリティは高い状況が続く。需給面からみても、市場流通可能な米国債残高は2008年の5兆ドル未満から31兆ドル超に増加、AI関連の巨額の資金調達で社債発行が過去最高のペースで進む下で、投資家は供給リスクを負担する見返りとしてより高いリターンを要求する。米国国債の買い手の構成8をみても、海外当局からの米国債需要は徐々に減少、投資ファンドやレバレッジを効かせた投資家など価格に敏感な投資家の役割が増していることもボラティリティを高めている。

株価は割高か?:CAPEの正しい見方

長期金利のボラティリティが高まると割高懸念が根強い株価への影響も気になる。シラー教授が考案したCAPE(景気変動調整後のPER<株価収益率>)は、平均への回帰が長期間見られずに40倍といった歴史的水準で高止まりし、株価割高感を測る指標としての信頼性9を失っている。しかしながら、当社の分析では、①1990年以降の会計基準の変更で収益見通しが過度に保守的になっている点や②マクロ経済変数(中立金利、コアインフレ率)の構造変化がCAPEに与えている影響を調整すれば指標としての有効性は維持され、それによると実際の株価の割高度合いはCAPEが示唆するよりもかなり限定的であるとの結果が得られる。

中国政府資産の活用

中国では不動産関連収入の激減で悪化する地方財政を救う政策として政府資産の活用が奨励10されているが、その効果に過度な期待を持つべきではない。①資産の有効活用による営業収入改善、②資産売却、③金融取引を通じた活用(担保や将来の収入を受け取る権利の金融商品化)といった手法がとられているが、不動産市況の低迷が続く下では地方財政の苦境を打開するだけの力はない。逆に、活用の過程で政府資産の評価や価格が不透明で歪んでいる場合は、地方政府の抱える問題が銀行や民間投資家に転嫁されるリスクが懸念される。

選出したリサーチ

※リンクがあるレポートは、無料で全文をご覧いただけます。日本語版があるものは日本語ページへ、それ以外は英語版へリンクしています。

  1. US: Warsh hints hikes are needed if inflation doesn’t ease
  2. Global: Refined oil and petrochemical feedstocks are key industrial pain points
  3. Global: Global diesel crunch sends cost pressures down the supply chain
  4. Global: Escalating Russia-Ukraine war worsens impact of other food price shocks
  5. Canada: Trade was flare-up will cost Canada
  6. US: Auto sector faces a tariff speed bump as US-Canada trade relations worsen
  7. Global Strategy: Quick thoughts on the bond-buying program
  8. US: Treasury demand is holding, but the buyer base is shifting
  9. Global Asset Allocation: CAPE Fear: Should investors worry?
  10. China: Asset revitalisation – Not a panacea for local government finances

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