Research Briefing
02 7月 2026
EU、中国からの輸入急増への対応を強化
一極集中的な貿易不均衡に立ち向かう新防衛策の実効性と、予測される通商摩擦リスク
近年、中国からの急速な輸出圧力(中国ショック)がEUの重要政策課題に浮上しており、新たな防衛措置の策定が進められています。現行の暫定的な防衛策では、中国から押し寄せる広範なマクロレベルの輸入急増に対抗しきれておらず、2024年の電気自動車(EV)への関税引き上げ後も、対象外であるハイブリッド車やガソリン車の輸入急増を招くなど、ミクロレベルの対策における限界が露呈していると指摘されています。EU首脳陣は現状の通商不均衡の維持は不可能であるとの認識を強めており、欧州委員会に対して既存のツールを基盤とした実効性のある新たな貿易防衛策の策定を指示したと報じられています。当社のエコノミストは、今後交渉による解決を模索しつつも通商摩擦がエスカレートするシナリオを予測しており、中国側の強力な報復や全面的な貿易戦争へと発展するリスクについて検証しています。
本リサーチ・ブリーフィング(原題:The EU steps up on the China shock)では、現在のEUと中国間の不均衡な貿易動向やEV関税の導入効果を詳細にトラッキングし、今後検討されている「調達先分散ツール」や「セーフガード措置の強化」といった具体的な二本柱の防衛策が欧州の主要産業に及ぼす影響について多角的に分析しています。
- 現行の貿易防衛ツールの機能不全とEV関税の教訓:EUがこれまでに講じてきた貿易防衛策は、調査開始から発動までに1年以上を要する長期の実施期間、データ収集の難しさ、詳細な製品グループに限定された対象範囲の狭さなど、いくつかの構造的欠陥を抱えているとみられています。これらはWTO(世界貿易機関)ルールへの準拠を重視して設計されたため、相手国のシステム的なマクロ歪曲に対応できていないと考えられています。例えば、2023年9月に調査が開始された中国製EVへの追加関税は、2024年10月の最終決定までに1年超を要した上、関税発動後にハイブリッド車やガソリン車の輸入急増を許す結果となり、個別製品への対処(ミクロアプローチ)の限界を示していると指摘されています。
- 「調達先分散」と「セーフガード強化」の二本柱となる新防衛措置:EUが検討している新たな通商措置は、米国のような無差別な高関税を避けつつ、実効性を高める方向性(主に二つの手段)で進められる可能性が高いと予測されています。第一に、EU企業に対して特定国からの原材料・中間財の調達シェアを一定比率(現在40%を想定、未確定)以下に抑えることを義務付ける「分散化ツール」です。これはクリーンテクノロジー、有機化学品、各種消費財などに影響を及ぼすとみられ、特定の国を名指ししないため中国からの報復リスクを下げる効果が期待されています。第二に、特定の輸入急増産業を守るための迅速かつ対象を絞った「セーフガード措置の強化」であり、医薬品原材料、化学品、グリーン技術、船舶、一部の消費財などが対象候補として予測されています。これらは2027年から2028年に実施見通しの「産業アクセラレーター法」などと相互に補完し合う可能性があると考えられます。
- 不均衡の根本原因と「グランド・バーゲン」の可能性: EUによる輸入抑制対策には一定の効果が見込まれるものの、貿易不均衡の根本原因は、中国の「不均衡な成長モデル」と「過小評価された為替レート(人民元)」にあり、EUの防衛策だけでこの構造を是正させる確率は極めて低いと分析されています。実際、EUの対中貿易赤字が拡大を続ける一方で、人民元はユーロに対して約15%減価しており、黒字国において本来生じるべき自国通貨高とは逆の動きとなっています。現在の中国国内の極めて弱い消費・投資状況を踏まえると、中国政府が成長目標を達成するために輸出に頼る構図は続くとみられます。しかし、EUが全面的な高関税を控え対話を重視するスタンスを示していることは破滅的な貿易戦争の回避に寄与する可能性があり、ユーロに対する人民元の切り上げを含む「グランド・バーゲン(包括的な大取引)」へ合意するインセンティブを中国側に与える契機にもなり得ると推測されています。
- 意思決定のプロセスと中国による「切り崩し工作」への耐性: EUにおける貿易防衛策の導入プロセスは、加盟国全員の「一致団結」を必要とせず、特定多数決方式(QMV)によって決定が可能であることが、実施におけるリスクを低く抑える一因であると考えられています。既存の措置のブロックには逆特定多数決(人口の65%を占める55%の加盟国の反対)が必要であり、例えば2024年10月のEV関税の採決では賛成10、棄権12、反対5という結果でも承認されました。このリスボン条約後の制度設計は、特定加盟国が個別の国益(ロビー活動)に左右されるのを防ぐ役割を果たしており、中国が「分割統治(個々の国をターゲットにした懐柔工作)」によってEU全体の防衛策を頓挫させることを困難にしていると指摘されています。

You might also be interested in
Tags: