中東情勢、AIブームと世界貿易、中国の対外黒字
7月の経済見通しと年後半の主なリスク
7日公表の月次予測1ではブレント価格の想定を引き下げ(年末87ドル→70ドル)、世界成長見通しを26年2.5%、27年3.2%とそれぞれ0.1%ppt引き上げ。世界CPI伸び率の3Qピークも0.5%ppts引き下げた。直後の中東情勢緊迫化を受けて来月の油価の想定引上げを議論2しているが、ホルムズ海峡経由の海運量は限定的で不安定な状況が長期化、ブレント価格が80ドルを超える状況が数四半期続くという泥沼化シナリオをbaselineとする可能性が高い。
26年後半の世界経済のリスク3を展望すると、中東情勢を筆頭にAI supply chainの混乱、貿易を巡る不確実性(米国301条関税、米国・メキシコ・カナダ協定、EUの対中保護貿易措置)、米国中間選挙などリストは長くなる。これらリスクは相互に密接に関連しており、中東情勢の悪化が他のリスクにドミノ的な波及し、中央銀行のタカ派化も招いて非線形的なショックを引き起こすことが懸念される。リスクの中心にある米国の年後半を展望4すると、最悪の展開では株価下落を通じて成長を支える富裕層の消費が腰折れるリスクが心配な一方、AIの普及・投資の一段の加速や生産性上昇が予想を上回る上振れリスクも相応にある。
金融市場は引続き年内に少なくとも1回の利上げを6割近い確率で織り込むが、当社がFEDの利上げの可能性が低いと一貫して考える背景には米国労働市場の現状に関する慎重な評価2がある。就業者数の増加ペースが高まっているが、移民政策による労働供給の変化で変動する傾向が強まっており、それだけで労働市場の過熱を懸念すべきでない。新規雇用も解雇も共に低水準という脆弱な均衡が続いており、幅広い労働指標から総合判断すると賃金加速で原油価格上昇の2次波及が深刻化するリスクは小さい。インフレの鍵を握るサービス価格については、生産性の高伸による単位当たり労働コスト(ULC)の伸び鈍化はむしろ下振れリスクを示しており、賃金の先行指標である自発的離職率も低迷している。
FED利下げは来年9月
FEDの次の一手は利下げとの見方を維持しつつ、来年9月までは様子見が続くと想定を変更した。供給インフレの2次波及は賃金上昇がサービス価格を押し上げるか否かが鍵を握るが、幅広い雇用関連指標を総合判断5すると、脆弱なバランスを維持する雇用市場は過熱よりは減速を懸念すべき状況にある。また、Warsh議長の重視するダラス連銀の刈込PCEインフレ指標の技術的な弱点を弊社が改良したうえで基調的なインフレの動向6をみても、財価格と異なりサービス価格では2次波及効果が収束に向かっている。ただ、雇用の需給を巡る大きなリスク要因はトランプ政権下での非合法移民の減少7で、今後一定のラグを伴って労働供給が減り始めると労働需給のタイト化が進む点には注意を怠れない。
米国の製造業で回復の動きに拡がり
米国の成長面での明るいニュースは製造業でもハイテク関連からそれ以外の業種に回復の動きが拡がっていること。当社産業分析チームは、耐久財を生産する米国企業の収益が過去2年間続いたマイナス成長を脱し、今年、来年と平均5.6%で成長すると見込む。米製造業の収益改善の背景8には、AI関連インフラのブームとそれ以外の機械・設備に対する投資サイクルが上向いていることがある。米国株式についてQ2の収益見通しのセクター別構成を分析9しても、ハイテクから資本財・サービス(Industrials)や一般消費財など景気循環銘柄に収益改善の動きが拡がっており、割高感の懸念のあるハイテクよりも収益上振れの可能性が高い。
AIブームと世界貿易
トランプ関税と中東紛争という相次ぐ負のショックに苦しむ世界経済を支え続けるのがAIブームの予想以上の強さ。世界貿易量10は25年2Qから26年1Qの間に前年比で4.6%拡大したが、AIブームなかりせば(2017-23年のトレンドが続くと仮定)2.3%の伸びに止まっていた計算。同時にAIブームは大きな下振れリスクでもあり、当社モデルを用いたAI下振れシナリオ(米国設備投資が9%下落、米国株17%下落、アジア株10-30%下落)では世界貿易量の伸びは26年で0.3%ポイント、27年は1.5%ポイントも下振れる。
中国の対外黒字拡大の背景
世界貿易が順調に拡大を続ける中で国別対外収支の不均衡も拡大している。中国の経常黒字拡大の動きも歯止めが掛からず、本年Q1には貿易黒字を原動力にGDP比でみて過去10年間の平均の倍の水準を記録。近年の経常黒字急拡大の背景を実証分析11すると、国の積極支援にも支えられた次世代戦略産業の輸出競争力の高さも影響しているが、むしろ高齢化などの構造要因がもたらすマクロ的な貯蓄・投資バランスの変化でかなり説明出来る。ただ、最近は実際の黒字はこうした構造的な経常黒字の推計値を大きく上回っており、そのギャップは深刻な投資活動の停滞と不動産市場の調整といった景気循環要因がもたらしている。
中国では消費が低迷する一方、マクロでみた貯蓄率は低位ながらも横這いの動きを続ける。このパズルの背景を分析12すると、家計が将来の所得に関して悲観的になる中で、借入れによる支出を抑制するバランスシート調整を続ける姿が見えてくる。実際、最近の現金給付などによる消費刺激策も債務返済に回されて効果が限定的となっている。こうした政策効果の限界に加え、高水準の債務など政策対応余地の限界もあって、当局は本格的な消費喚起策には慎重な姿勢を維持する可能性が高い。当局は戦略産業の競争力強化、高付加価値化を最優先とする経済対策を続け、それが経済全体の所得改善を通じて消費の有機的な回復に繋がることを待つとみている。中途半端な消費喚起策は、海外企業を利するかたちで対外収支の悪化につながり、国内製造業の供給力強化や高度化といった政策目標にも逆行する。
EUの対中保護貿易政策
中国の輸出爆増の被害が特に大きいのがEUで、自動車、クリーンエネルギー、金属、化学などに対する国内産業保護措置13が今後打ち出される見通し。ただ、中国製EVに対する高関税は事前の調査等に時間を要して施行に1年以上かかり、施行後はハイブリッド車やガソリン車の輸入急増を招いた。また、報復関税などで貿易戦争が激化するリスクも孕む。こうした既存の保護措置の限界や弊害を踏まえ、今後の措置は①EU企業にサプライヤーの分散を促すと共に、②緊急輸入クォータなどセーフガード措置を強化することを2本柱とするとみている。これら措置の導入だけで中国の構造的な経常収支黒字を是正することは期待出来ないが、中国との交渉過程で現状の貿易不均衡は持続不可能であることを理解させ、ユーロ人民元の水準調整といった大きな譲歩を引き出す可能性はある。
選出したリサーチ
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- Global: Lower oil prices aren’t a gamechanger for the growth outlook
- Global: Why the Middle East crisis is heading towards a long, messy muddle
- Global: The dominos to watch in the second half of the year
- US: What to watch in H2
- US: Labor Market Tracker – More cool than hot
- US: Warsh’s preferred inflation measure needs a trim
- US: Slowing net migration hasn’t tightened labor markets yet
- US: Industrial profits adjust to higher cost
- Equities: IT leads Q2 earnings forecast, but signs of broadening
- Global: AI trumps the oil shock to trade
- China: What’s behind the rise in the external balance and what are the risks?
- China: Why has household support stayed so measured?
- Europe: The EU Steps up on the China shock
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オックスフォード・エコノミクスの世界経済ハイライト
Oxford Economics 在日代表(元日本銀行国際局長)の長井 滋人が日本マーケットに関心度が高いマクロ経済テーマを日本語で解説します。世界経済ハイライトでは、当社が発行したリサーチから関連度が高いレポートを選出しています。原則2週間に1度の更新です。
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