OE Logo
Blog
01 7月 2026

FED見通し、ECB見通し、USMCA

長井 滋人
長井 滋人
在日代表

米国の金利据え置きは来年後半まで

FEDの政策見通しを従来の12月利下げから来年後半の利下げに変更。最近の油価下落にもかかわらず金利据え置きの長期化を予想するのはWalsh新議長の想定以上にタカ派的な姿勢1によるもの。FOMC後の記者会見でWalsh議長は2%の物価安定の議論に終始、雇用最大化という政策目標には言及しなかった。FEDは今後もタカ派的な情報発信を続けて金融環境のタイト化を図るが、中東情勢沈静化に連れて利上げ予想は次第に後退していくとみる。ただ、Walsh議長は政策の予見可能性を低下させるコミュニケーション戦略を志向しており、不確実性によるタームプレミアム拡大が世界の中央銀行の政策運営にも影響を与えよう。

金融市場は引続き年内に少なくとも1回の利上げを6割近い確率で織り込むが、当社がFEDの利上げの可能性が低いと一貫して考える背景には米国労働市場の現状に関する慎重な評価2がある。就業者数の増加ペースが高まっているが、移民政策による労働供給の変化で変動する傾向が強まっており、それだけで労働市場の過熱を懸念すべきでない。新規雇用も解雇も共に低水準という脆弱な均衡が続いており、幅広い労働指標から総合判断すると賃金加速で原油価格上昇の2次波及が深刻化するリスクは小さい。インフレの鍵を握るサービス価格については、生産性の高伸による単位当たり労働コスト(ULC)の伸び鈍化はむしろ下振れリスクを示しており、賃金の先行指標である自発的離職率も低迷している。

ECBも金利据え置き長期化

ECBの政策見通し3についても7月の追加利上げ予想を取り下げ、来年3月まで金利が据え置かれると予想を変更。中東情勢好転と油価低下を受けてエネルギー価格ショックの2次波及リスクが低下したためだが、同時に予想している中立金利へ戻すための利下げが来年3月より後ずれするか、そのまま据え置かれる可能性も高まっている。中東紛争によるインフレ圧力が次第に減衰していく一方、ドイツの財政拡張やEUによる対中国を念頭に置いた保護主義的な貿易・産業政策、ユーロ安といった要因からの中長期的インフレ圧力が高まるため。

USMCA交渉長期化のダメージ

米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)は7月1日を期限として見直しが行われきたが、米国は自動車の米国調達比率引き上げやメキシコ経由での中国製品の流入阻止などを求めて交渉は難航。当社は3Qに交渉妥結との想定から、交渉が長期化する下で現在の関税の取扱い(含む他国比寛大な関税適用除外ルール)が続くと想定を変更。モデルで影響を試算4すると、交渉妥結のケースと比べ実効関税率の上昇は限定的ながら、貿易政策を巡る不確実性の高止まりがコンフィデンスや投資への重石となり、カナダとメキシコのダメージが大きい。

ドイツの製造業投資が漸く回復へ

大陸欧州の成長停滞の象徴であるドイツの設備投資5は主力の製造業を中心に今年安定化し、2027年2%、2028年4%と他のユーロ圏諸国の2倍程度の伸び率で回復を続ける見込み。中東紛争のショック減衰と共に、防衛・インフラ需要の急増、エネルギー転換の加速、AI主導による発電および送電網技術への需要拡大が追い風となる。ただ、ドイツの設備投資が過去のような強さを持続的に取り戻すとはみていない。今回の急増は主に国内および地域的な要因に牽引されたもので、その範囲は比較的狭く一時的なものに留まる可能性が高く、グローバル化の停滞、中国製造業からの競争圧力などが長期的に回復を制約する。

中国のアジアにおける供給網拡大の動き

グローバル企業が中国への依存度を減らすために生産拠点を分散させる「中国+1」戦略6が進められてきたが、中国の製造業に占めるグローバルな地位を揺るがすには至っていない。これまでは中国からの生産移転は低付加価値の消費財や電子機器の組み立て分野において選択的に進められるに留まっている。高付加価値の分野では、中国への直接輸出への依存度を低減させる点で成功を収めているが、中国がアジア域内で急速に拡大しているサプライチェーン網への根本的な依存度は低下していない。アジア新興国にとっては中国の産業高度化を補完できる分野において最大のビジネスチャンスが生まれる状況が続き、「中国+1」戦略の次の段階は中国自身が主導するという皮肉な展開となっている。

基軸通貨ドルの現状

昨年の「解放の日」以降、米ドルの実質実効レートはドルの基調的な強さを経済変数で示す当社ドル高スコアが示唆する水準よりも弱く推移している。リスク回避度を示すVIX指数が急上昇する局面でも必ずしも有事のドル買いがみられないケースが増えている。基軸通貨としてのドルの位置付け7を再確認したペーパーによると、米ドルは引続き、①金利差、②生産性上昇に裏付けられた相対的に高い成長率、③断トツに強いAI投資と普及率、④AIブームを背景とした株式市場の強さによって支えられる一方、トランプ政権の政策によってドルへの全面的な信頼は揺らいでおり、米国への旺盛な資本流入の割にはドルヘッジ比率の高まりによってドル高が進まないといった事態を招いている。

世界不均衡下の資本のリサイクル

世界の経常収支不均衡が国際金融システムの安定へ及ぼすリスクに関する議論が再び盛り上がっている。韓国ではAI投資ブームで記録的な経常黒字が続くが、黒字の大部分がウォンには転換されずに対外資産として積み上がり、対ドルでのウォン安基調に歯止めが掛からない。半導体輸出で潤う企業が外貨収入をそのまま対外直接投資に回しているほか、個人投資家も米国株式への投資を大幅に増やしている。こうした韓国の特異な対外余剰のリサイクリング8が続くと、米国のハイテク株が変調を来したり、米国との金利差縮小で為替ヘッジコストが上昇したりする場合に急激にウォン高が進んで金融市場が混乱するリスクがある。

選出したリサーチ

※リンクがあるレポートに関しては、無料で全文閲覧が可能です。

  1. Global: What the Fed’s increasing opacity means for other central banks
  2. US: The labor market is not overheating
  3. EZ: The case for a one-and-done hiking cycle from the ECB
  4. Global: No deal or rupture for USMCA, just a long negotiation grind
  5. Germany: A surge in corporate capex is coming but don’t expect it to last
  6. APAC: China+1 is being shaped by China itself
  7. Global: King dollar is bruised but not dethroned
  8. South Korea: The won won’t appreciate in an AI rally

※ご購読者様のみ、すべてのレポートをご覧いただくことができます。
新規ご購読や弊社サービスにご関心がある方は、お問い合わせフォームよりお問い合わせください。

オックスフォード・エコノミクスの世界経済ハイライト

Oxford Economics 在日代表(元日本銀行国際局長)の長井 滋人が日本マーケットに関心度が高いマクロ経済テーマを日本語で解説します。世界経済ハイライトでは、当社が発行したリサーチから関連度が高いレポートを選出しています。原則2週間に1度の更新です。

無料ニュースレターへの登録は こちら から。

お問い合わせ

当社のサービスについてより詳細な説明や情報をご希望の場合は、右記フォームにお問い合わせ内容と必要事項ご記入ください。操作方法の質問、トレーニングのご相談なども承っております。後ほど担当者よりご連絡いたします。   本フォームを送信することにより、オックスフォード・エコノミクスから製品およびサービスに関する連絡を受け取ることに同意したものとみなされます。お客様の個人情報を第三者に共有することは決してありません。また、当社からの配信をご希望されない場合は、いつでも配信を解除いただけます。  
My Oxford の技術的なお問い合わせに関するガイドライン
  My Oxfordプラットフォームに関する問題(ログインに関する問題など)がある場合は、 サポートチーム までご連絡ください。 または、オックスフォード・エコノミクスの ヘルプおよびサポートページ をご覧ください。