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16 10月 2026

財政再建、フランス長期金利、中国住宅市場

長井 滋人
長井 滋人
在日代表

中東情勢vs.AI投資ブーム

世界経済の最大のリスクである中東情勢については、9月後半の緊急改定で引き上げた原油価格の想定1を今月も概ね維持。当社推計では中東からの原油輸出量はタンカー以外の船舶による原油積み替えを中心に危機前水準に近付いているが、輸送コストの高騰で油価格高止まりは長引く。原油以上にディーゼルなど石油精製品価格の上昇は著しく9月の米国物価指標上振れ2の主因となっており、10月のFED利上げの可能性は消えていない。米欧日の中銀は今後2回利上げを行った後に長期の据え置き期間に入るとみているが、中東情勢次第で更なる対応が必要となる可能性も否定出来ない。この間、世界的な長期金利上昇が成長の逆風にはなるが、それによって先進国中銀の利上げモード3が変化することはないとみている。

世界経済の底堅さを支えるAI投資ブームに関しては、その持続性を示す各種指標をリアルタイムで追いかける米国AIトラッカー4や月次チャート集5からみる限り、勢いに陰りは見られない。AI導入は業界内および業界間で急速に広がっており、先行指標からはデータセンターの建設鈍化の兆候も見られず、AIインフラ整備に向けた投資はさらに活発化して来年の米国成長率を0.4ppts押し上げる見込み。ただ、AIへの楽観論が急激に崩れるリスクは否定出来ないほか、AI普及が労働市場で大規模な雇用喪失を引き起こしてはいなくても、水面下では一部業種での若年労働者の失業や再就職難といった動きが生じていることには要注意。

世界的長期金利上昇と財政持続性

ここ数か月の世界的な長期金利急上昇は、インフレ懸念や中銀タカ派化が主導していたが、今後は各国における財政再建の取組み6に対する市場の評価がもたらす影響も大きくなっていく。先進国全体の構造的基礎的財政赤字は、2018年と比べて支出増加を主因にGDP比1%から約3%に急拡大。その中で2011年~23年の殆どの期間でマイナスであった先進国の実質債券利回りは近年に入って急上昇し、一部の経済圏では実質金利負担が実質GDP成長率を上回り、政府債務比率が上昇している。構造的赤字の拡大を容認すると景気後退時に財政赤字が膨れ上がる可能性が高まり、IMFが声高に主張するように財政再建へのニーズが高まる。

ただ、欧州債務危機時の問題国ポルトガルにおける財政再建7の成功体験を振り返っても、財政再建を成功裏に行うのは一段と難しい時代になっている。ポルトガルの持続的な成長回復は財政再建負担を軽減させたが、内訳をみると生産性の向上ではなく蓄積されていた巨額の労働余剰の解消と移民の流入増によってもたらされた。殆どの先進国においてこれを再現するのは難しい。また、債務対GDP比率を押し下げる強力な要因となった2010年代の低金利時代は終了している。財政再建には王道である支出削減に取り組むしかなくなっているが、高齢化対策や防衛関連の支出増加圧力に直面する現在の先進国政府が抜本的かつ痛みを伴う措置を講じるには債券市場からのかなり強烈な圧力が必要となる。

フランスの長期金利の予想とシナリオ分析

フランスの国債利回り8の対独スプレッドは来年4月の大統領選挙までに200bpsまで拡大、その後徐々に縮小するとベースラインでは想定。ルペン氏が勝利した場合も、市場からの圧力に加え、議会での過半数議席の拡大が見込まれることや新大統領任期当初は選挙からの圧力が弱まるため、財政再建への動きが緩やかながらも進むとみる。ただ、市場の期待を満足させるには至らず、スプレッド縮小は緩やかで長期的に100bpsを上回って推移すると見込む。

ただ、想定以上にスプレッドが拡大してユーロ圏各国に影響が波及するリスクは相応にある。その際の金利上昇や家計や企業のコンフィデンス悪化を介した影響をモデルでシナリオ分析9すると、フランスとイタリアは緩やかな景気後退に陥る。一方、スペイン、ポルトガル、ギリシャへの影響は比較的限定的で、ユーロ圏全体では景気後退を回避できる。ただ、フランスが財政赤字をイラン戦争前に戻そうと財政再建を図るという財政緊縮の想定を加えると、低い財政乗数(0.3)を用いてもフランスのGDPを更に0.15%~0.3%押し下げる。

中国の住宅市場の調整

中国住宅市場の底入れ10の時期について当社は悲観的で2020年代中は難しいとみる。住宅在庫は過去最高水準に近く、開発業者への資金供給はさらに逼迫、銀行のリスキーな不動産融資は著しく増加している。一方、住宅ローン補助金などの需要面での支援は対象範囲が狭過ぎるなど力不足で、最近の一線都市における価格回復は限定的。不動産市場の不調と経済活動の鈍化が相互に作用しあう悪循環が一段と顕在化しており、住宅市場はGDP成長率を今年1.6ppts、来年1.1ppts押し下げると予想。さらに長期を展望しても、住宅に対する構造的需要は2035年までに2019年の水準の約半分、2060年までにさらに50%減少する見込み。

FEDタカ派化と新興国の利上げサイクル

当社実証分析によると、FEDの利上げが加速しても、従来と異なり新興国全体で広範な利上げサイクル11が展開される可能性は低い。今回は原油価格の高騰がコアインフレに波及する程度が限定的であることが主因だ。一部新興国では利上げが行われても、その要因は原油価格にあり、FEDではない。FED利上げで為替レートが著しく下落した場合には新興国の中央銀行はより強力な対応を迫られる可能性はあるが、最近の新興国通貨安はリスク回避のセンチメントに起因する一時的なもので、米国の短期金利の急上昇によるものではない。

異常気象のマクロ経済への影響

相次ぐ異常気象がもたらす経済的影響も一段と無視出来なくなっている。今月は深刻なエルニーニョ現象12に対する脆弱性を産業別の指数化した分析やインドネシアの森林火災がASEAN全体へもたらしている煙害の影響13に関する調査物が出ている。

選出したリサーチ

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  1. Global: Middle East oil exports are climbing but the market is far from normal
  2. US: PCE nowcast – Rate hike on the table for October
  3. Global: How will central banks react to higher bond yields?
  4. US: AI tracker – Full steam ahead
  5. US: AI Chartbook: October 2026
  6. Global: Fiscal adjustment – why, where, and how
  7. Global: Lessons from Portugal’s fiscal renaissance
  8. France: Even more pressure lies ahead for spreads
  9. EZ: French bond stress could generate an asymmetric shock
  10. China: Housing won’t find a floor this decade
  11. Global: The Fed won’t trigger an EM hiking cycle
  12. Global: The divergent impact of El Nino
  13. Asia Pacific: Economic cost of ASEAN’s haze is small

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Oxford Economics 在日代表(元日本銀行国際局長)の長井 滋人が日本マーケットに関心度が高いマクロ経済テーマを日本語で解説します。世界経済ハイライトでは、当社が発行したリサーチから関連度が高いレポートを選出しています。原則2週間に1度の更新です。

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