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16 6月 2026

米国利上げの可能性、ユーロ圏設備投資、英国財政リスク

長井 滋人
長井 滋人
在日代表

中東紛争と原油市場の関係

1か月前にバレル110ドルを記録したブレント価格はその後大きく低下、米国とイランが戦闘終結に向けた暫定合意に署名1との報道で80ドル台前半へ戻っている。これまでホルムズ海峡封鎖が長期化しても油価への影響が限定的であった背景2を分析すると、他の産油国の生産増加に加え世界的な在庫取り崩しがバッファーとして有効に機能してきた。在庫減少ペースがこのまま続く最悪シナリオでは9月末には在庫水準が閾値に達して油価が急騰するとみていたが、その蓋然性が停戦暫定合意で大きく低下したことが原油相場の予想以上の低下に繋がったとみている。当社も油価の想定の緊急引下げを行うが、実際の物流の回復にはまだ紆余曲折が予想されることもあり、26年の成長率見通しの引上げ幅は限定的とみている。

世界的な利上げ期待の高まりは行き過ぎ?

金融市場は先進国における利上げモードの高まりを囃しているが、当社は停戦合意以前から市場に比べて積極的な利上げには懐疑的な姿勢。ひとつの理由はマネーサプライや与信活動からみた金融環境3がさほど緩和的でなく、高インフレのリスクが限定的であること。過去のエネルギー価格ショックの経験を検証しても、高インフレには繋がったのは70年代や2021-22年といったマネーや与信面でみて極めて緩和的な金融環境にあった局面に限られる。

もうひとつの理由はホルムズ海峡封鎖に伴うサプライチェーンの混乱・ストレス4がコロナ禍後の2021-22年と比べて限定的なこと。NY連銀が作成するGlobal Supply chain pressure指数など最近急上昇しているストレス指標の動きを分析すると、事態の深刻さを実態より過大に示している可能性がある。実際のボトルネックが発生していなくても、それを見越した前倒し発注の影響が指標に出ている可能性や報道などのテキスト分析に基づく指標がメディア編集者によるインフレ懸念を煽る姿勢で歪んでいる可能性が考えられる。

米国の関税率を巡る新想定とリスク

中東情勢の混乱で注目度が下がっているが、最高裁による違憲判決を受けたトランプ関税の根拠法や国別関税率の変更の影響も当社の関税モニター5はきめ細かく追いかけ続けている。1974年通商法122条に代わる通商法301条関税により、7月下旬以降、米国の実効関税率は9.3%から9.7%に小幅上昇する見込み。不公正な貿易慣行に関する調査が進行中であるため上振れリスクの方が厚いが、米国の成長・物価予測を変更するほどのものではないとみる。

ユーロ圏の設備投資と再軍備の影響

ユーロ圏の民間設備投資6は中東紛争の影響に対して予想以上に強い耐性を示すとみている。防衛、AI関連機器・ソフトウェア、政策主導型投資など、景気変動の影響を受けにくいセクターが下支えとなるほか、航空機や医薬品などはそもそも需要動向の影響を受けにくい。ユーロ圏の企業投資が一段と景気変動の影響を受けにくくなっている背景には、無形資産への投資の割合が増加していることも影響しているほか、「ネクストジェンEU」プログラムによる政策支援の強化やグリーン移行に向けた補助金も一助となっている。

欧州における防衛関連支出の増加7は、中東紛争の影響やエネルギー集約型製造業の構造的な低迷を部分的に相殺している。産業別には、電子機器や光学製品といった高度な投入財において波及効果が顕著な一方、金属や化学製品といった基礎的投入財ではより限定的になっている。ただ、防衛関連の受注の増加ペースは生産能力の拡大を大幅に上回っており(装備費関連需要の約40%が海外に流出)、こうした生産のボトルネックと財政面からの制約が防衛費拡大の大きな制約となる。成長への波及効果が限定的なため防衛費拡大は主に財政赤字によって賄われ、増税や他分野での歳出削減によって支出を相殺する必要性が高まっている。

英国の構造的脆弱性と財政リスク

英国の財政状況は悪化8を続けており、他国に比べて中東紛争などのショックの影響を受け易いのが気掛かり。英国のグロス政府債務はG7諸国比小さいが、公共部門の資産が少ないため純債務の状況は遥かに脆弱で、財政赤字もG7諸国の中でも最も大きい部類。政府の借入削減計画をみても税収に依存した財政再建は失敗率が高く、小規模な歳入源に重点を置いている点でリスクは大きい。計画された財政引き締めを先送りしてきた過去も信憑性を損ねている。歴代政権は、インフレ高止まりと低迷する生産性成長への対処に苦慮してきたが、政情不安やポピュリズム的な言説の台頭で必要な改革の推進がますます困難になっている。

英国の生産性9は2024年の総選挙以降伸びが著しく加速しているが、それは一部識者が主張するようなAIの利用拡大や成長志向の政府政策に起因するものではない。生産性改善は低賃金部門(宿泊・飲食サービス業、小売業、運輸業など)に集中し、AIの利用率が高い分野(ICTや専門サービスなど)では目立った改善は見られていない。低賃金部門における生産性の伸び加速は、主に最近の最低賃金の急激な引き上げや雇用主の国民保険料負担の増加がもたらした若年層を中心とした雇用減少を映じたものに過ぎない。生産性の向上に構造的失業の増加が伴う状況下では、潜在GDP成長率の向上は期待し難い。

金の価格調整の背景分析と今後の見通し

ここ数年上昇を続けた金価格10が中東紛争を契機に調整局面に入っている。過去1年間は中央銀行による買い入れが鈍化した中、個人投資家が主な買い手となってきたが、証拠金追徴の資金調達のためのポジション調整やAI関連のテーマへの資金シフトが売りに繋がった。ただ、短期的にはともかく、長期的には金は引続き魅力的。供給ショックが頻発し、インフレ過熱、法定通貨の価値下落への懸念が続くと予想される下で、株式と債券の正の相関関係が構造的に強まっているため、新たな分散投資手段として金が果たす役割は大きい。

選出したリサーチ

※リンクがあるレポートに関しては、無料で全文閲覧が可能です。

  1. Global: US-Iran agreement isn’t yet a game-changer for the global outlook
  2. Global: Inventory depletion could become the trigger for Hormuz reopening
  3. Global: Inflation risks and the monetary backdrop
  4. Global: Why supply chain stress indicators may be exaggerating inflation risks
  5. US: Tariff Monitor – The new tariff regime begins to take shape
  6. EZ: Why business investment is more resilient to the war shock
  7. EZ: Rearming Europe – capacity and fiscal constraints cap the economic dividend
  8. UK: Debt predicament – structural weakness and a credibility deficit
  9. UK: Is a more optimistic view on recent productivity trends justified?
  10. Cross Asset: Gold is a 2027 story – stay neutral

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